トモコヴォイス会報誌vol.59
「子育て奮闘記」
ー ハミガキ大作戦 ー
先月一歳六ヶ月の検診に保健センターへ行った。
受付が始まるまで四十分近く待たなくてはならなかった。
椅子にずっとおとなしく座っていられない、
あっちへ行きたいこっちへ行きたいと主張する息子だ。
私は十キロの子を抱っこし、ぐずり防止作戦で
息子の気をいろんなところへ集中させようと話かける。
人間の成長はすごいもので、話すことはできなくても、
私が言っていることは理解できているようだ。
ぐずりはじめの泣いている状態でも、私が疑問詞で話かけると
「今日は楽しかった?」
「う~ん」(← 尻上がりに返事)
と答えてくれる。
「ワンワン見たね~」
「う~ん」(← 尻下がりに返事)
と、二人の会話は続き彼は泣いていたことを
忘れてしまうのだ。
疑問詞で問いかけることがどうやら良さそうだ。
いったん聞いて、考えようとするのか
泣くのがいったん止まる。
保健士さんに呼ばれ、息子の成長ぶりや
私と家族の様子などを聞き、子育てのアドバイスを
くれたりした。
息子がどこまで理解しているのか、絵本をだし、
ワンワンは?
ニャンニャンは?
などと質問され、息子は得意げに指で
これっ!と指す。
すべて正解だと親バカの私は、心の中で
「よしっよしっ天才だ」
と喜ぶ。
身長、体重を量り、歯科検診最後に歯磨きの
個別指導を受けることとなった。
毎晩、歯ブラシをポイッと投げ捨て
歯磨きを断固拒否する息子に、そんな指導が
できるのだろうかと私は心配だった。
いつもの歯ブラシを持参し、歯科衛生士さんに渡す。
私より年上で経験豊富そうな女性だ。
彼女の膝の上に息子の頭をのせようとした瞬間から、
大泣きがはじまった。
いやだ~と、足はバタバタ、手もバタバタ
歯磨きなんかさせるものかと身体全体で表す。
そこを無理矢理に手足を押さえ、
彼女は歯磨きをしはじめた。
上下の歯の表と裏、全然できていなかったのがばれて、
ここぞとばかりに血がにじむほどしっかりとすべてを
磨かれた。
終わってもグスングスンと、息子の目から涙がこぼれる。
へとへとになって家へ帰った。
あ~、どうにか歯磨きを楽しく習慣化できたらいいのになぁ
と私は考えた。
よし、まず歯ブラシだ。
自分で歯ブラシを選ばせよう。
近くのドラッグストアへ行った。
彼はすぐにアンパンマンの水色の歯ブラシを手にした。
自分の好みを知っている。
それと、シールをペタペタと貼ったり、はがしたりするのが
好きなので、ハミガキできたらシールを貼らせることにした。
ちょうどアメリカから安く買ったものがたくさんあるのだ。
さぁ、その日から実行だ。
歯ブラシしようと声をかけ、私も磨く、できるだけ楽しく
笑って磨くようにする。
ぬいぐるみや、タオルの絵にある動物も
みんな楽しく歯磨きだよ~っ
と歯ブラシをそれぞれの口にあて、シャカシャカする。
はいっうがい~
クチュクチュぺっというと、
私のいい方が面白いのか、なぜか大笑いする。
そして彼自身が歯ブラシを持つように促す。
よしっ、ここまでくればと、仕上げ磨きをさせて
くれるかと思いきや、そう簡単にはいかない。
え~んっと声をあげ拒否される。
泣いてるすきに歯ブラシを入れささっと下の歯だけ磨く。
ほんの三十秒ぐらいだろうか。
終わるとすぐに泣きやみ、何事もなかったように
ニコッとしてシールをはる息子。
次の日は上の歯、次の日は裏側、という具合にやっていった。
ある夜奇跡が起きた。
そんな息子が自分からベッドの布団に横になり口をあけ、
その口を指さし私に歯ブラシを持たせた。
何なのだこれは?
歯ブラシしろと言っているのか?
と私は驚きながらも遠慮なく小さな歯を奥まで
磨かせてもらった。
そして静かに終わる。
こんな日がやってこようとは、
嬉しさと不思議な感覚になった。
笑っちゃうね~!
と私が笑うと息子も笑った。
次の日、また依然と同じように歯磨きを嫌がる。
幻だったのだろうか?
子育てとはこんなことの繰り返しなのかもしれない。
大変! 嬉しい! 驚き! の日々。
tomoko
トモコヴォイス紙面会報誌 vol.59より
(2012年4月1日)