トモコヴォイス会報誌vol.41
「恐ろしい出来事」
ージョシュアツリーキャンプの冒険ー
2001年9月11日アメリカ同時多発テロの日、
何をしてたか人に聞くと大抵の人が答えられる。
もう9年が経つが、あんな大惨事が起きた日を世界の人々は覚えているのだろう。
二度とあの様な事を地球のどこででも人間が起こしてはいけない。
その再確認をするためにも今、生きている私達が振り返り思い出すことは大切だ。
私はその日の前日、ロサンゼルス空港で日本からやってくる妹を待っていた。
忙しい仕事の中、三泊ぐらいの休暇でやってくる。
有意義な時間を過ごしてもらいたいとその夜はマリナーズ戦でイチローを見に行き、
次の日からは二人が好きなアリゾナ旅行を計画していた。
11日朝9時、もうすでに起きていた大惨事を知らないまま、
旅行に行くため車でロサンゼルス空港に向かっていた。
その時点で全米空港閉鎖だったのだがテレビも見ず、ラジオも聞かなかった私達は
その空港には入れないとわかりもう一つの空港からアリゾナへ飛ぼうと向かった。
そこで初めておばちゃんに話を聞いてその大惨事を知り旅行を断念、家へと戻った。
もう昼過ぎだった。
妹は疲れてテレビの前で居眠りをはじめてしまった。
短い滞在だ、こうしてはいられないと私は考えた。
よしっ車なら移動ができるからとテントとランプをレンタルして
キャンプに行くことにした。
ジョシュアツリーというキャンプ初心者向きの場所、車で2時間程度だ。
炭やカレー、食料などを買い込み夕方過ぎにロサンゼルスを出発したので
だんだんと暗くなってきてしまった。
現地に近づくと、あたりは背の低いサボテンの砂漠、草原、
道を照らすのは、車のヘッドライトのみ。
暗い一本道を進むと、両脇にぬわ〜と
何やら大きな影が現れた。
「な、何これ〜?!」
と妹と二人でよく見ると、それらは大きな石だった。
NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」ではないが、
まさに水木しげる漫画の妖怪ぬりかべのようだ。
少しずつ怖くなってきて
「大丈夫かなぁ?」と心細い会話・・・
そんな時、小さな光が見えた。
それはキャンプに来ていた人達の明かりだったのだ。
人間がいる、ここがキャンプ場だと二人で安堵した。
それからは妹の手際の良さで
ご飯を炊きカレーやサラダを作った。
慣れない手つきでランプに火を灯し、
テントなど張った事がない私達、形は悪いがどうにか
二人が入って寝れるスペースのテントを張った。
ご馳走を並べて二人でやっと向き合い、
今日の長い一日を思い出して
よくここまでやれたと二人で褒め合い笑った。
そしてカレーをスプーンに盛った時、
妹が私に言った。
「お姉ちゃん、そのままテントに入って」
今まで笑っていた妹の顔が一変して怖がっているのに気づいた。
「何?」と聞くと
「後ろに何かいる」というのだ。
私と妹はそのままの体勢でそうっとテントに入った。
私は中から外を伺って見た。
なんと、耳が長く身体は銀色に光っている
コヨーテがこちらを見ていた。
ひぇ〜。
コヨーテの群れがテントを囲んだのだ。
私たちはテントから外に出られなくなった。
夜中12時過ぎ、妹は夜通し起きていたようだったが、
よほど疲れていたのか私はそのままテントで寝てしまった。
いつしかコヨーテの遠吠えが聞こえたかと思ったら、
シーンと静まり返った。
朝5時、外に出て見ると、ピンクと水色の朝焼けの空。
とても静かで朝陽に照らされ輝いていた。
大惨事なんて無関係の大自然の中、
私達は無事に生き延びる事ができた。
tomoko
トモコヴォイス紙面会報誌 vol.41から
(2010年9月1日)