トモコヴォイス会報誌vol.58
77「ロサンゼルス生活~珍事件」
ー エルニーニョの雨 -
私は八年間ロサンゼルスで生活していた。
夏はカラッとしていて、陽射しが強いが
日陰に入るとヒヤッとして気持ちがいい。
湿度が低くて良さもあるがひどい時は前の晩にしぼっておいた
布巾が朝起きると絞ったままの形でカチカチなっているという乾燥だ。
肌にも相当影響しているだろう。
年中加湿器をつけていた。
でも一月はよく雨が降る。
ある年、エルニーニョ現象といって異常気象になり、
いつも以上に雨が降った。
ロサンゼルスの街は雨一色となった。
しかしずっと家の中にいることもできず買い物に外へ出た。
片側四車線、全部で八車線ある道路の交差点で信号を待つのだが、
そこは直径十メートルくらいの池になっていた。
道路の水はけが悪いのだ。
全然水が引いていかない。
車のタイヤは水につかった状態だ。
日本ではありえないだろう。
ひぇ~と思いながら家に帰ってくる。
私の住んでいたアパートメントは四階建てで
地下に駐車場がある。
いつものようにゲート前で車の中からリモコンでゲートを開け、
急な坂を下り、地下へ駐車する。
そのゲートの前には水が入らないように砂袋が置かれていた。
私は車を停め三階の自分の部屋へエレベーターで上がった。
愛猫、チャとブーとともにやまない雨を家の窓から眺めていた。
ふと、もしかしたらと車が心配で駐車場にエレベーターで
降りて行った。
エレベーターの床は布の絨毯敷きになっている。
地下に着いた途端に乾いていたその絨毯がジメジメと濡れだした。
エレベーターの扉が開いた途端、水、や泥水が流れ込んできた!
不安が的中。駐車場へ入る扉が重い。
恐る恐る開けてみると膝までその泥水で浸水していた。
あ~、車が危ないとサンダル履きのまま車に向かう。
足元は黒い水で床まで見えない。
足でさぐりさぐり安全確保で歩いて行く。
良しっ愛車、黒いホンダのインテグラに乗り込んだ。
タイヤ三分の二は浸水していたなぁ。
水が流れこんでくる上り坂を走り無事地上に脱出する。
地上へ出ると、まだ雨が降っていたがちょうどそのアパートは
高い位置にあったので周りの道で浸水しているところはなかった。
ロサンゼルスに住んでた確か六年目のこの時期だったなぁ。
この雨はひどかった。
同じそのアパートメントに住んでいた時に、それは起こった。
ふと朝起きた時、なぜかちょろちょろと水が流れる音がした。
エルニーニョの雨ではない。
外は降っていないと気づく。
チャとブーも私のベッドに一緒に寝ていた。
まだ朝七時前だったかな。
はじめ寝ぼけてるかと思いながらも耳をすませると、
確実に聞こえるのがわかった。
ベッドから起きてリビング、キッチンへ向かった時、気付いた。
なんなんだ、これはっ!
目を疑う!
天井から壁に伝う水、そして足元の絨毯は水浸しだ。
キッチンを見るとカウンターテーブルの上の天井から
溢れんばかりの大量の水、横幅三メートルぐらいの滝だった。
ザーッと水が流れ落ちてきていた。
まさにアンビリーバボーだ。
その水を止めようにも止まらない、私は何もできないまま
呆然とその光景を見ていた。
人間、想定外のことが起きると一瞬、頭が白紙になる。
ふっとわれにかえりマネージャーに電話した。
そしてわかったことは上の四階に住む住人がバスタブに
お湯をためるため、お湯をだしたまま寝てしまっていたのだ。
つまりそのお風呂からあふれ出てきたお湯が下に寝ていた
私の部屋に流落ちてきたということだ。
これも日本ではあまりありえない現象だろう。
クレージーピーポーだとマネージャーがはいっていたが、
起こしにいってくれてからお湯はとまった。
家の中までエルニーニョの雨。
たくましく生きるロサンゼルス生活だった。
tomoko
トモコヴォイス紙面会報誌 vol.58より
(2012年3月1日)
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